テイスティングの基本 — 点数をつけずに、好みを見つける

第3章 楽しみ方 | 最終更新: 2026-08-12

樽番号が手書きされたサンプル瓶と、琥珀色のテキーラ(現地撮影)

テイスティングというと「正解を当てる訓練」のように聞こえますが、逆です。自分が何を美味しいと感じるかを、自分の言葉で持てるようになること。それができると、次の一本を人任せにせず選べるようになります。

点数をつけない、という立場

テキーラの街は点数をつけません。理由は単純で、見知らぬ他人が別々の好みでつけた点の平均には、あなたにとっての意味がほとんどないからです。

「92点」と言われても、その人が樽の甘さを好むのか、青いアガベ感を好むのかがわからなければ、自分に合うかは判断できません。それより役に立つのは「どんな味だったか」「どこで誰と飲んだか」という具体です。

点数の代わりに持つべきは語彙です。「美味しい/美味しくない」の2択から、「この青い草っぽさが好き」「樽が強すぎると自分には重い」に進めると、選ぶ精度が一気に上がります。

風味はどこから来るのか

テキーラの香りは大きく3層に分けて考えると整理できます。中心にアガベ、その外に製法、いちばん外に樽です。

風味はどこから来るのか 青い植物 甘いアガベ 土・ミネラル 白胡椒 焼き芋・キャラメル ヨーグルト・乳酸 オリーブ・塩気 柑橘・青リンゴ バニラ ココナッツ シナモン ドライフルーツ
  • アガベ由来どの一杯にもある土台
  • 製法で乗る窯・発酵・蒸留の選択
  • 樽で乗る熟成の長さで増える
中心に近いほど「アガベそのもの」、外側にいくほど造り手の選択で乗ってくる風味です。 ブランコは中心が主役、熟成が進むほど外側が厚くなります。
出典: 風味の分類はテキーラの街による整理。工程と風味の対応は NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格)の製法区分に基づき、 味の傾向は業界で一般に語られる特徴です。感じ方には個人差があります。

この地図があると、感じた香りを「これはアガベ由来だな」「これは樽だな」と仕分けできます。仕分けができると、自分が好きなのは中心なのか外側なのかがわかる。それがそのまま「次に買うべきクラス」の答えになります。

飲む前に — グラスと温度

おすすめ理由
グラス 飲み口がすぼまったもの
(グレンケアン、白ワイングラス等)
香りが上に集まる。ショットグラスは香りが逃げて何もわからない
温度 常温(18〜22 冷やすと香りが閉じる。キンキンに冷やすのは味を隠す飲み方
グラスの底が隠れる程度 少量で十分。多いとアルコールで鼻が疲れる

4つの手順

1. 見る

色を見ます。ただし色の濃さから熟成期間を推測しないこと。着色料が認められているので、色は当てになりません(詳しくはこちら)。見るのは粘性です。グラスを回したとき壁を伝う脚(レガス)が遅いなら、度数が高いか、糖やグリセリンが入っている可能性があります。

2. 嗅ぐ — 口を開けて

ここがいちばん大事で、いちばん間違えられている工程です。

鼻をグラスに突っ込んで思い切り吸わないでください。 40%のアルコールが鼻の粘膜を刺激して、その後しばらく何も感じられなくなります。

  1. グラスは顎の下から始める。そこから少しずつ鼻に近づける
  2. 口を軽く開けて嗅ぐ。鼻と口に分散してアルコール刺激が和らぐ
  3. 2〜3回に分けて。1回目は全体、2回目で細部を探す

3. 含む — 転がしてから飲む

少量を口に含み、すぐ飲み込まずに舌の上で転がします。5秒ほど。甘みは舌先、苦味は奥、酸は側面で感じます。

初めの1杯目はアルコールの刺激しか感じないことがよくあります。これは正常です。1杯目で口を慣らし、2杯目から本番だと思ってください。

4. 余韻を測る

飲み込んだあと、味がどれくらい残るか。短い=悪いではありません。 すっと消えるブランコは食中に強いですし、長い余韻は食後にゆっくり向き合うのに向きます。用途が違うだけです。

チェイサーの使い方

合間に何を飲むか

水(常温)Agua

やり方
一杯ごとに口をすすぐ。氷なしの常温が望ましい
出やすい味
舌をリセットする。次の一杯が正しく味わえる

サングリータSangrita

やり方
トマト・柑橘・チリの伝統的なチェイサー。テキーラと交互に少しずつ
出やすい味
酸と辛味が味を切り替える。メキシコの定番の楽しみ方
どちらか一方ではなく、水で整えてサングリータで遊ぶ、が現実的です。塩とライムは味を隠すための飲み方なので、味わう場面では使いません。
出典: サングリータはメキシコで一般的なチェイサー。作法に公式規格はなく、地域や店により異なります。

飲み比べるなら、こう並べる

2本以上あるなら、変数を1つだけ変えると違いが立ちます。

比べ方何がわかるか
同じ蒸留所のブランコとレポサド樽が何を足して、何を覆うか
違う蒸留所のブランコ同士製法と土地の違い。いちばん差が出る組み合わせ
100%アガベとミクスト原料の差。一度やると戻れなくなる
タオナとローラーミル搾汁の違い(つくり方

並べる順は淡いものから濃いものへ。逆にすると、樽の強い一杯のあとではブランコが何も感じられなくなります。

記録するとき、何を書くか

点数の代わりに、この3つを残すと後で効きます。

  1. 思い出した具体物 — 「焼き芋」「濡れた土」「白胡椒」。抽象語(芳醇、上品)より、思い浮かんだ物の名前のほうが後で自分に伝わります
  2. 好きか、そうでもないか — 良し悪しではなく、自分との相性だけ
  3. どこで、誰と — 味の記憶は場面と一緒に残ります。同じ酒でも状況で印象は変わる。それでいいのです
テキーラの街のアプリが記録するのも、まさにこの3つです。点数の欄はありません。 代わりに「どこで・誰と・どのテキーラを」が残り、それが集まると 「いま日本で本当に飲まれているテキーラ」という、他にはないデータになります (銘柄データベース)。

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主な参照: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格。着色料・度数の規定)/ CRT(テキーラ規制委員会)公表情報。 テイスティングの手順・風味の分類はテキーラの街による整理で、公式規格が定めるものではありません。 感じ方には個人差があります。