テキーラの作り方 — 製法の違いが味に出る理由
第2章 つくり方 | 最終更新: 2026-08-12
テキーラの製法を「工程の名前」で覚えても、味の話にはつながりません。大事なのはどこに造り手の選択があるかです。同じアガベを使っても仕上がりが違うのは、その選択の積み重ねによります。
アガベを植えてからボトルに入るまで、最短でも6〜8年。
「味が変わる」と付けた5工程には、造り手が選べる分岐があります。
同じアガベを使っても仕上がりが違うのは、この選択の積み重ねによるものです。
出典: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格)が定める製造工程の区分に基づく。 1〜2. 栽培と収穫 — 7年育てて、一日で刈る
アガベ・アスルは植えてから収穫まで6〜8年かかります。ウイスキーが「蒸留してから寝かせる」酒だとすれば、テキーラは原料を作る段階ですでに何年も待っている酒です。
収穫はヒマドール(jimador)と呼ばれる職人の仕事。コアという専用の刃で葉をすべて削ぎ落とし、中心部のピニャ(piña)だけを取り出します。松ぼっくりのような姿からこの名(スペイン語で「パイナップル」)が付きました。
ここにも判断があります。 葉をどこまで深く削ぐか(エスキラード)で、苦味のもとになる部分が残るかどうかが変わります。若すぎるアガベを刈れば糖が乗らない。数字に出ない部分ですが、味の土台はここで決まります。
ロス・アルトス地方の畑。鉄分を含む赤い土がこの地方の特徴です。テキーラの街 現地撮影(ハリスコ州)。 現地で聞いた「良いアガベ」の見分け方
2024年10月、アランダスの自社畑を案内してもらったときに教わったのが、株の中心部の色でした。状態のいいアガベは、葉が固く巻いた中心部が金色に輝いて見えるといいます。糖が十分に乗り、収穫に適した状態のサインです。
中心部が金色に輝いている株。現地では、これが収穫に適した状態の目印とされています。テキーラの街 現地撮影(ハリスコ州アランダス・2024年)。 畑を歩きながら葉を切ると、切り口からとろりとした樹液が滲み出てきます。この液体が糖のもとで、ここから先の工程はすべてこの糖をどう引き出し、どう発酵させるかの話になります。
葉の切り口から滲む樹液。テキーラの街 現地撮影(ハリスコ州アランダス・2024年)。 3. 加熱 — 最初の大きな分かれ道
アガベの糖分はそのままでは発酵できない形(イヌリン)なので、加熱して分解します。ここで方式が分かれます。
伝統的な釜は horno de mampostería と呼ばれます。
mampostería は「石やレンガを積んで築くこと」を指す言葉で、
実際にはレンガ積みの釜が主流です。
日本語では「石窯」と紹介されることがありますが、
このサイトでは実物に合わせてレンガ釜と表記します。
加熱:レンガ釜 vs オートクレーブ レンガ釜(マンポステリア)Horno de mampostería
- やり方
- レンガを積んで築いた釜で低圧・低温。24〜48時間かけて蒸す
- 出やすい味
- 焼き芋のような甘み、素朴なアガベ感。時間がかかるぶん角が丸い
オートクレーブAutoclave
- やり方
- ステンレスの圧力釜で高圧・高温。7〜12時間程度
- 出やすい味
- クリーンでシャープ。効率が高く大量生産に向く
どちらが正しいという話ではありません。レンガ釜は時間と燃料を食う代わりに複雑さが出て、オートクレーブは安定と再現性を取ります。 出典: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格)が定める製造工程の区分に基づく。味の傾向は一般に語られる特徴で、規格が定めるものではありません。
レンガ釜の中。焼き上がったピニャが窯いっぱいに詰まっています。現地撮影(2023年・ハリスコ州)。掲載許可の確認前のため仮置きです。 加熱には第三の方式としてディフューザー(拡散抽出)もあります。生のアガベを砕いて熱水と酸で糖を溶かし出す装置で、極めて効率的な一方、アガベを「焼く」工程を経ないため風味の出方が根本的に異なります。愛好家の間で議論が多いのはこの方式です。
4. 搾汁 — 石で潰すか、機械で挽くか
搾汁:タオナ vs ローラーミル
タオナ(石臼)Tahona
- やり方
- 数トンの石車を円形の穴で回し、焼いたアガベを潰す
- 出やすい味
- 繊維ごと発酵させることが多く、土や植物の厚みが出る
ローラーミルMolino de rodillos
- やり方
- 回転するローラーで粉砕し、水で糖を洗い出す
- 出やすい味
- 雑味が少なく澄んだ酒質。現在の主流
タオナは1バッチに何時間もかかるため、採用しているのは一部の蒸留所だけです。ラベルに「Tahona」と書かれていたら、その手間をかけている証です。 出典: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格)が定める製造工程の区分に基づく。味の傾向は一般に語られる特徴で、規格が定めるものではありません。
搾汁を終えて出てくるバガソ(アガベの繊維)。この繊維を発酵槽に戻すかどうかで、味の厚みが変わります。テキーラの街 現地撮影(ハリスコ州)。掲載許可の確認前のため仮置きです。
5. 発酵 — 何に入れるかで、何が棲むかが変わる
糖を含む液(モスト)に酵母を加えてアルコールに変えます。ここでの選択は容器と酵母です。
発酵:木桶 vs ステンレスタンク 木桶Tina de madera
- やり方
- 木の内部に棲みついた菌が発酵に関わる
- 出やすい味
- 蒸留所ごとの個性が出やすい。複雑だがブレも出る
ステンレスタンクTanque de acero
- やり方
- 洗浄・温度管理がしやすく、条件を揃えられる
- 出やすい味
- クリーンで再現性が高い。狙った味を毎回出せる
培養酵母を使うか、空気中の野生酵母に任せるかという分岐もあります。後者は「発酵に何日かかるか読めない」代わりに、その土地らしさが出ます。 出典: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格)が定める製造工程の区分に基づく。味の傾向は一般に語られる特徴で、規格が定めるものではありません。
発酵中のモスト。糖がアルコールに変わり、表面が泡で覆われます。現地撮影(2023年・ハリスコ州)。掲載許可の確認前のため仮置きです。 アガベの繊維(バガス)を一緒に発酵させるかどうかも分かれます。繊維を残すと植物的な厚みが出る一方、扱いは難しくなります。タオナを使う蒸留所は繊維ごと発酵させることが多く、ここは4と5がセットで効く部分です。
6. 蒸留 — 2回が基本
規格上、テキーラは2回以上の蒸留が必要です。1回目(オルディナリオ)で度数20%前後まで上げ、2回目でテキーラの原酒にします。
蒸留器:銅製ポットスチル vs ステンレス 銅製ポットスチルAlambique de cobre
- やり方
- 銅が硫黄化合物と反応し、雑味を取り除く
- 出やすい味
- まろやかで甘い印象になりやすい
ステンレス(銅コイル併用)Columna / acero
- やり方
- 耐久性と効率が高い。連続式の塔を使う場合もある
- 出やすい味
- シャープでクリーン。アガベの輪郭が立つ
3回蒸留すると雑味は減りますが、アガベらしさも一緒に削れます。「回数が多いほど上等」ではありません。 出典: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格)が定める製造工程の区分に基づく。味の傾向は一般に語られる特徴で、規格が定めるものではありません。
銅製ポットスチルが並ぶ蒸留室。現地撮影(2023年・ハリスコ州)。掲載許可の確認前のため仮置きです。 7. 熟成 — ここから先はクラスの話
蒸留を終えた時点の無色透明な酒がブランコです。ここから樽に入れると、期間に応じてレポサド・アネホ・エクストラアネホになります。
樽は主にアメリカンオークの古樽(バーボン樽が多い)ですが、フレンチオークやワイン樽を使うものもあります。詳しくはテキーラの種類で扱っています。
熟成は足し算であると同時に引き算です。樽の風味が乗るほど、蒸留所ごとの個性やアガベらしさは覆われていきます。「造り手の実力を見るならブランコ」と言われるのはこのためです。
熟成庫。樽は積み上げられ、静かに年月を待ちます。現地撮影(2023年・ハリスコ州)。掲載許可の確認前のため仮置きです。 製法をどう味わうか
- まずブランコで蒸留所を知る。 樽の化粧がない状態が、その造り手の素の姿です
- 気に入ったらNOM番号を控える。 同じ蒸留所なら製法もほぼ共通です(ラベルの読み方)
- 製法を公表しているかを見る。 窯・搾汁・発酵・蒸留器を具体的に語るブランドは、隠すものが少ない傾向があります
- 違いを言葉にしなくていい。 「こっちのほうが好き」で十分です。テキーラの街が点数をつけないのも同じ理由です
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主な参照: NOM-006-SCFI-2012(メキシコ公式規格。工程区分・蒸留回数・熟成の定義)/
CRT(テキーラ規制委員会)公表情報。
各方式の味の傾向は業界で一般に語られる特徴であり、規格が定めるものではありません。